W3Cが見つめるデジタルマーケティングの未来

私の会社(アルファサード株式会社)では、4月にW3Cのメンバー(Affiliate Member)になりました(参考:アルファサードはW3Cのメンバーになりました)。5月5日から7日にかけて開催された W3C Advisory Committee Meeting(AC Meeting) に私が参加してきたので、そのレポートを兼ねて W3C で行なわれている活動について少し紹介してみたいと思います。

W3C では今年の9月にデジタルマーケティングに関するワークショップ(Web and Digital Marketing Convergence)を予定しています。今回のパリの AC Meeting ではデジタルマーケティングに関する話題は特に出なかったので(AC Meetingに先立って開催された Intro to W3Cでは説明を受けました)、そのあたりについては個人的に聞いた話しやワークショップのウェブサイトに記載されている内容などをご紹介します。

※お恥ずかしい話しですが私自身の英語力の問題? があり且つ個人の感想を含みますのでW3Cのオフィシャルな考え、見解ではないのでその点についてはご了承ください。

AC Meeting は 5月5日から7日、パリの Hotel PARIS - Novotel Paris Centre Tour Eiffel で行なわれました。5月5日は INTRO DAY AND W3C EUROPE @ 20 と位置づけられ、午後から、新しいメンバー向けの Intro to W3C が行なわれました。

これは、各地域毎の新メンバーごとに小さな部屋に分かれ、各ワーキンググループのリーダーが順番にグループの活動を紹介し、質疑応答するという場です。Intro to W3C でいきなり一同に介する中で英語で挨拶するという予期していない出来事に狼狽えたのは私です(が、実はこの後もっと狼狽える出来事に遭遇するのですがそのあたりはまた別の機会に...)。

W3C について

W3C と言えば言わずもがな HTMLの仕様を勧告している組織であり、昨年 HTML5が正式に勧告されたことはこの業界の方ならご存知だと思います。勧告を作成するのはワーキンググループで、HTML や CSS を含め現段階で48あります。

このほかに、デジタルパブリッシングや Web of Things(※)などのトレンドについてディスカッションするインタレストグループが15、ビジネスグループが3、その他にコミュニティグループが 187あります。他にタスクフォースやアドバイザリーボードというのもあります。こうなると少々混乱してきますので、このあたりの用語を整理します。

※W3C では IoT とは呼ばず、Web of Things (WoT) というカテゴリとなっています。

W3C の組織
名称内容
Working Group (WG)実際の勧告を作る
Community Group (CG)非会員でも作れる、人を集め緩くはじめ、Working Groupへの昇格を目指す
Interest Groupテーマの括り、例えば Web & TV
Task Force特定のトピックの中のある要求について議論、例えば Web of Things & Security。尚、それぞれのテーマについては WG がある
Advisory Board顧問

W3C とデジタルマーケティング

実際にこれらすべての WG のリーダーによる説明を聞く時間はさすがに一日では足りませんから、主なワーキンググループのメンバーやリーダーによる話しを聞くかたちになりました。例えばウェブアクセシビリティ。その他、デジタルマーケティングに関する話しもありました。W3Cの中でもデジタルマーケティングはひとつのトレンドのようですが、このテーマに関する議論はまだ始まったばかりのようでした。4月末にアメリカのフロリダ州で、ニールセンをホストとしてワークショップを開催するという話しだったようですが(延期されたようで)、現在は以下のアナウンスがされています(9月17日〜18日、同じくフロリダで開催)。

Web and Digital Marketing Convergenceのウェブサイト(画面キャプチャ)

私からも少し質問してみました。「W3Cのスコープとデジタルマーケティングのスコープが同じ方向に見えない」といった内容の質問です。これに対する答えとしてでてきたのは「プライバシーとセキュリティ」でした。このあたり、ワークショップのウェブサイトの「Goals and Scope」のところから少し読み解いてみたいと思います。

Why Digital Marketing?

Digital Marketing has supported innovation since the dawn of the Web, from start-ups to mature Web properties. Over 25 years later, the W3C community sees an emerging need for standard mechanisms in support of digital marketing interoperability and analytics for the ecosystem's growth and resiliency.

なぜデジタルマーケティングか?

デジタルマーケティングは、ウェブの黎明期からウェブの技術革新をサポートしてきました。 25年の時を経て、W3Cのコミュニティはデジタルマーケティングの相互運用性と分析をサポートする標準的なメカニズムが必要であると考えています。

W3Cのミッションは標準化にありますので、デジタルマーケティングのブームによってそのようなニーズが出てきたということなのでしょう。ホストとなっているニールセンや Adobe の働きかけも関係しているのかもしれません。

Why Now?

Digital Marketing and the ecosystem surrounding it are growing at an unprecedented pace as consumers and companies take advantage of new devices, features, and content on the Web. As the Open Web Platform and technologies such as HTML5 continue to expand and offer new functionalities, brands, interactive marketers, content publishers and third party providers are calling W3C's attention to gaps and challenges, which include a lack of standards on the definition and secure execution of, for example, marketing campaigns, advertising performance, data collection, and marketing signals.

なぜ今なのか?

消費者や企業が新しいデバイス、機能、Web上のコンテンツを活用することで、デジタルマーケティングとそれを取り巻くエコシステムは前例のないペースで成長しています。 HTML5のようなオープンWebプラットフォームは新しい機能を提供し、ブランド担当者、インタラクティブマーケティング担当者、コンテンツ出版社やサードパーティのプロバイダはデジタルマーケティングの安全性、標準の欠如、ギャップや課題があることをW3Cに呼びかけています。例えば、マーケティングキャンペーン、広告パフォーマンス、データの収集やマーケティングシグナル。

W3C では HTML や CSS、ウェブアクセシビリティといった良く知られたテーマ以外にも「車とウェブ」であったり「テレビとWeb」、もちろん「モバイルウェブ」といったテーマで標準化に関するディスカッションがなされています。簡単に言えば、デジタルマーケティングがこれらのテーマと同じようにホットなトピックであるというところなのでしょう。

Why W3C?

The transformation and impact of diverse industry needs on the Web is a core focus of the World Wide Web Consortium (W3C). In collaboration with experts in organizations representing interactive advertising, media, digital marketing, online retailing, market research, customer data analytics, Web applications, consumer groups, and more, W3C is organizing its first digital marketing workshop. Our goal is to start conversations with technical representatives from the broad digital marketing industry and the open web community to better understand what changes to the Open Web Platform would help improve interoperability, increase efficiencies, enable new innovations, and enhance communications.

なぜ W3C?

Webで必要とされる変革と多様性は World Wide Web Consortium (W3C) の重点課題です。インタラクティブ広告、メディア、デジタルマーケティング、オンライン小売、市場調査、顧客データ分析、Webアプリケーション、コンシューマグループなどを代表する専門家と連携し、W3Cはその最初のデジタルマーケティングのワークショップを組織しました。 私たちの目標(目的)は、オープンWebプラットフォームをどう改善すればより効果的な技術革新が可能になるかについて、デジタルマーケティング及びオープンWebコミュニティの担当者と話し合い、理解することです。

マーケッターとセキュリティ関係者、あるいはウェブアクセシビリティ関係者? はしばしば相反する主張を行なうことがあることを私はこれまでのキャリアの中で見てきました。特にマーケッターの要求するトラッキングに関することと、ユーザーのプライバシーを守ることは相反する部分がでてきます。

プライバシー問題はデジタルマーケティングの大きな課題

私は、ずいぶん前になりますが(多分10年くらい前のことです)ある都市銀行のプライバシーポリシー、Cookie に関するポリシーを策定するという仕事をした経験があります。

その時にクライアントと議論を重ねた結果、私が出した最終結論は「個人情報と行動履歴を紐づけてはいけない」というものでした。当時からマーケッター側から「そんなことでモノが売れるわけが無いので、例外を認めろ」といったやりとりは当然のようにありました。

そういった面でも、プライバシー問題にセンシティブになっている金融機関や医療機関などのマーケティング担当者は、そのあたりの指針を欲しているというのは理解できます。 ネットバンキングが一般化し、Eコマースが一般化し、スマホが普及し人々のウェブとの接点が大きく増え、デジタルマーケティングの活用の機運が高まってきた今こそプライバシーやセキュリティを含むデジタルマーケティングの標準的なルールが求められているのかもしれません。

当初パリの AC Meeting の参加レポートをメインに書こうと思っていたのですが、途中からデジタルマーケティングネタ一色になってしまったので、続きは次回にさせていただきます。