出遅れが致命的な結果にならないために――ますます重要になるコンテンツマーケティング
実務家と学生という変わったポジションから書かせていただいている当連載も3回目となりました。さまざまな業務を経験する中で、マーケティングを学ぶことの必要性を感じて入学を決意した産業能率大学。著者が入学したタイミングで現代マネジメント学部には、経営、マーケティング、経営情報、経営財務、経営コンサルタント、ビジネス・プロフェッショナルなどのコース選択が可能でした。
当然ここではマーケティングコースを選択しました。3年時にマーケティング以外の科目として、現代の経営学、経営戦略の考え方、人材マネジメントの考え方、問題発見・解決力を伸ばす、情報解釈力を鍛える、消費者心理学、価格決定の戦略などの配本があり(4年時に選択科目として、パーソナリティの理解、統計学なども選択可能で)さまざまな領域の知識に触れることができました。
入学当初はピンポイントにマーケティングを学びたいという思いがありましたが、単位数クリアのためには幅広い範囲で科目選択する必要がありました。ですが、結果から申し上げると、このような形で網羅的に学ぶことができて本当によかったと考えています。
BtoBのマーケティングに限らず、「誰に」「何を」「どのように」伝えていくかが大切なのは言うまでもありません。現場でそのあたりの文脈を考え、PDCAを回していく場合に、基本的なプランニング面での消費者心理学的な知識、問題解決手法や情報解釈力についての知見があるかは非常に大切ですし、さらに考えを人に伝えていくには演出・表現力を磨くことも大事です。このようにトータルで考えていただくと、周辺知識の習得の大切さもご理解いただけると思います。
周辺知識の重要性
さて、ビジネスを継続していくために――BtoB企業に不可欠な「分析の知」では、日本のBtoB企業は購買行動の分析、購買プロセスの理解の点で大きく遅れているという話を紹介しました。そこからの脱却を図るための一例として、「購買意志決定プロセスモデル」や「生産財におけるコミュニケーション戦略」といったフレームワークを用いることでの効果についても簡単に紹介させていただきました。もしご覧になっていない方は第2回も読んでいただければと思います。
購買行動の分析(あるいは購買プロセスの理解)が意外に広まっていないということについて、もう少し簡単に現場の例を引きながらお話します。結局、自分たちの言いたいことを広告を使って大量に流通させたとしても、相手の立場や状況を考えていないために関係構築に至らない、つまり、商売に結びついていないということです。他方、そもそもマーケティング施策の必要性への認識が欠落しているという問題もあるような気がしておりまして、みなさんが参加される会議でも、予算の承認や枠組みを構築するところでは大きな労力がかかっているけれど、消費者に発信する実際のメッセージをどのようにすれば相互理解が進むのか、望んでいる反応を得るためにはどのような工夫が必要なのかについては、時間がほとんど割かれないケースがあったりしませんか?
こういった環境でマーケティング担当になっている方々には、マーケティングの有用性を理解してもらう社内変革を含めた苦労が伴います。こういった側面の対処を含めて考えていくと、勉強することをマーケティングだけに絞るのではなく、前述したように、経営全般と人間理解に関する知識習得も併せてされることを強くお勧めしたいと思います。
コンテンツマーケティングって効果あるの?
最近コンテンツマーケティングやインバウンドマーケティングという用語を見かける機会が多くなっていると感じています。以前、マーケティングエンジンの高広伯彦さんがHubSpotに関するセミナーで、「検索時代はハーベスター型」という話をされたのを聞いて大きく頷きました。
わたしたちは毎日大量の情報に接触しながら、自分で欲しい情報を検索し、必要な相手にはメールや電話で問い合わせを行い、オンラインでの注文や対面での打合せを経て、発注処理を行うなどの行為を繰り返しています。
このような行動の中で、問い合せフォームを送信した会社としなかった会社にはどんな違いがあったのでしょうか。はたまた、電話でコンタクトしてもらったことが嬉しかった場合もあれば、忙しいからメールにしてくれないかと思う場合もあり、これがどのような要因によるものなのかを考えてみることは、自社のマーケティング施策を考えていくうえで有用なことだと思います。
世の中はよくも悪くもオンラインへの依存度が高くなっており、問い合せする見込み客のほとんどはWeb上の情報を見てから問い合せを行ってくるケースが大半かと思います。
こちらの図をご覧ください。
営業人材を増やすことで売り上げアップは見込めます。高度成長期ならどんどん人を増やしてと、いう方法もあったでしょうが、現在の日本では、雇ってしまった社員の解雇は問題になるケースも多く、IT化や省力化を図っている側面から、いかに人材を増やさずに収益を確保していくかを考えなければならない時代に突入しています。
そしてグローバルにビジネスを拡げていくことが多くの会社に求められる時代においては、営業組織の拡張に規模の経済性が少ないケースや営業効率が悪くなる場合もあり、こういう側面からもマーケティングによる売れる仕組みの構築の重要性が叫ばれている背景があると著者は考えています。
多くの人が、自分の欲しいサービスや商品を検索して見つける時代において、コンテンツマーケティングの重要性は説明不要かと思います。さらにもう一歩進んで考えるならば、それが最小限の人的資源の投入で行われているとしたら、目指すところである売れる仕組みがコンテンツマーケティングによって実現していると考えられるわけです。
ですので、コンテンツマーケティングやインバウンドマーケティングは一時的な流行ではなく、営業規模や組織規模に依存せず売り上げを拡張していくために企業にとっては最重要な取り組み課題だと著者は考えています。
誰に何をどのように伝えるか?
では誰に何をどのように伝えるかをもう少し具体的に考えてみたいと思います。購買意思決定プロセスでは、それぞれのプロセスで欲しい情報が違うであろうことは各項目をご覧いただければ一目瞭然かと思います。
このほか、BtoBマーケティングでは購買状況モデルの「再購買」「修正再購買」「新規購買」という3つの購買タスクの話が必ず登場しますが、違いの認識が難しいわけではないので、そこで求められる情報の違いもご理解いただけるものと思います。
同様にBtoBマーケティングでは組織的な購買という特性があり、つまり、そこには異なる部門や複数の階層から構成された人たちが関わることを意味しており、それぞれの考えも違えば、必要とする情報も違うということを考慮しなければいけません。
毎回書いていますが、制作会社という立場で打ち合わせに行くと、「Webサイトを作りたい」とか「カタログを作り替えたい」という漠然とした依頼が多いことに驚きます。
日本の法人数は国税庁の発表によれば257万社を超えるそうで、これらの購買プロセスに個別対応していくのは非現実的です。つまり、単純に細分化してメッセージを考案すればよいということではなく、大事なのは自社にとって必要な売り上げと利益を確保できる相手はどのようなセグメントに属しているのかを見極め、その人たちとつながる接触機会の確保のためにはどのようなアプローチやメッセージから共感が得られるのかを考えることがまず大切なのではないでしょうか。
今回のまとめ
著者が相談を受けている企業の例として、相手先の売り上げ規模でアタック先の選別をしているケースが多いようです。ただ、その事業規模は単なる売り上げ金額の数字だけで、どのような取引で収益を確保しようとしているのかが現場に落とし込まれていないケースに出くわします。
そう言われても改善方法が分らないという場合には、シンプルなところに立ち返るという意味で前回紹介した「生産財におけるコミュニケーション戦略」では生産財広告の効果として、事前効果、問い合せ効果、コンセンサス効果の3つの分類をしていたのを思い出してみてください。
- 解決しなければいけない課題を抱えた見込み客が社名で検索するような認知獲得が出来ているか?
- 検索して情報を収集し、複数社から資料を取り寄せ、比較検討段階で必要となるような情報は適切に提供されているか?
- 意思決定者、購買担当者、使用者間などでコンセンサス効果がスムーズに得られる情報提供、ブランド認知やブランド構築がなされているか?
この3つの要素から売れる仕組みが回っているかを検証することで、マーケティング施策の拡充するポイントや改善ポイントが見えてくると思います。
「コンテンツマーケティングって効果あるの?」の項でも申し上げた通り、時代背景として企業の大小・新旧を問わず、人海戦術で売り上げを高めるということではなく、生産性をいかに高め、効果的な経営を実現するかが問われている時代で、こちらのHubspot社のJeetu"J"Mahtani氏のインタビューはまさに人数に頼らない効果的な施策が実現している好例だと考えます。
5年前にポストしたブログ(BtoBマーケティングのリードジェネレーションをテーマにした記事)はいまだに読まれ続け、リードを生成している(6カ月で獲得リード数が5.2倍――HubSpot Internationalのマネージングディレクターが語るインバウンドマーケティングの効果)。
そしてGoogleは被リンクが多いページよりも、特定分野の専門家が書いたページのほうが価値が高いと考え、検索で上位に表示するオーサーランクに移行する方針という話題が先日ソーシャルメディアを賑わせていました。
この話から著者が考えるのは、コンテンツマーケティングやインバウンドマーケティングへの取り組みが遅れたことが起因し、検索結果での優位なポジションを取り損ねてしまうリスクは計り知れないのでは? ということです。
ここでの出遅れが数年に渡って悪影響を及ぼさないためにも、このタイミングでの「誰に」「何を」「どのように」伝えていくかの「コミュニケーション戦略」の見直しが必要なのではないでしょうか。