インサイドセールスなしには語れないBtoBマーケティング

 「企業サイトの運用を激変させるマーケティングオートメーションツールの衝撃体験」ではマーケティングオートメーションツールを利用したBtoBサイトの運用がこれまでのそれとは違う次元に移行する可能性に触れました。このような例をはじめ、インサイドセールス、コンテンツマーケティングやインバウンドマーケティングといったIT活用を前提としたマーケティング手法を取り入れつつ事業を継続、拡大させていくのが今後のビジネスの大きな潮流になっていくと著者は考えています。

 コンピュータの高性能化とITテクノロジーの進化によって開拓された事業分野は計り知れないものがあり、PaaS(Platform as a Service )を利用した事業者/ビジネスもどんどん登場している現状があります。用語が分らないという方には、スマホ登場から急速に普及したアプリビジネスであったり、ここ最近のクラウド基盤を利用したビジネスが多く登場していること考えていただくと分りやすいのではないでしょうか。

 ただ、これらのビジネスは既存の重厚長大型のものに比べ、参加することへの資本障壁も少なく、デジタルの特性上、コピーすることも容易だったりするために、戦後の高度成長期のビジネスを創出した層がビジネス規模の小ささを過小評価するようなケースに出くわすことがあり、気になっています。

 前回は著者のスタジオミュージシャン時代の経験にも触れ、小規模事業であってもこれからのBtoBマーケティングに役立てる知見が提供可能ではという持論を示しました。この原稿を書くにあたり、資料集めをしている中で、このようなマーケティングの新潮流を取り入れていく過程について、「ITmedia マーケティング」の読者の方々であれば確実にご存じであろうイノベーションのジレンマやキャズムから学べることがありそうだと感じた点があります。

 ですので今回は、前回書ききれなかったことに触れつつ、新しい波を取り入れる段階ならではの難しさについて考えます。

新しい取り組みに向く人材、向かない人材

 映画『スティーブ・ジョブズ 1995 ~失われたインタビュー~』において、ジョブズがインターネットの可能性にこんな形で言及しています。

米国では通信販売のシェアは2割弱だが、すぐにそれがWebに移行し、何百億という規模に成長する。顧客に直接、販売が可能な究極のルートだよ。

 そして、こんな風にも、

それに世界一小さな企業もWebでは大企業になり得る。

 著者もインターネットの可能性に強く惹かれ、ホームページ制作会社を立ち上げこれまでの仕事にしてきました。当然ながら、インターネットが一般化する以前には、今となってはお笑い草のような経験も沢山しつつ、世の中はすでにネットなしでは成り立たない時代となっています。

 振り返ると色々なブームが起きては消えています。2~3年前の電子書籍ブームももう少し産業の拡大を期待したのですが、残念ながら日本においては無理だったのかな......と感じる今日この頃。

 そしてここ最近、IBMやオラクル、そしてセールスフォース・ドット・コムが買収合戦を繰り広げているマーケティングオートメーションツールの分野においても、ジョブズが語った何百億という顧客に直接、販売が可能な究極のルートを活用するために、それを必要とする企業にとって大きな力を与えるのではないかという期待感が膨らんでいる状態だと考えています。

 最近ではインターネットを通じてのサービスが主体となるビジネスで起業するケースも多く、マーケティングオートメーションツールの活用はホームページを開設するのと同じレベルで重要になると著者は考えていますが、この分野はまだ日本での実績が少ないこともあり、まだ不透明なことや逆風があるかもしれません。

 マーケティングや企業経営の分野で知らない人はいないであろう「イノベーションのジレンマ」にこんな一節があります。

小規模な市場では、大企業の短期的な成長要求を満たすことはできない。

 この指摘はこれまでホームページ制作を請負う立場でお客さんからの声を聞いた中でも感じたことであり、そもそも依頼者がそのビジネス規模に不満をもっている状態でどうしてプロジェクトがよい方向に進むのだろう......と思うことが多くありました。そして同書ではこんな記述が続きます。

大企業の成績志向の社員に、小規模で不明確な市場をターゲットにした破壊的プロジェクトのために、必要十分な資源、注意力、エネルギーを傾けることを期待するのは、手をばたばたさせて空を飛ぼうとするようなものだ。組織の機能における重要な性質を無視している。

 ビジネス書ではオリジナリティや差別化の重要性を説くものが大半ですが、実際の世の中は二匹目のドジョウを狙う模倣サービスが溢れかえっており、そこにアサインされている人間が組織の機能における重要な性質無視しているのであれば、そこからよい結果が得られるほうが奇跡的だと言えるでしょう。

 クリステンセンはイノベーションの解で、実績ある企業が、破壊的イノベーションでの成功確率を高めるためには、機能別に構成された軽量級チームと重量級チームをそれぞれ適切に用いることの重要性を説いてます。さらに安定企業のマネジメントスキルを備えた人材がイノベーションを成功させるような場合には不向きな場合もあることも指摘しているほどです。

ここでも感じる個の時代

 はじめに山ありき

 やがて山はなく

 そして山ありき

 これはジェフリー・ムーアがキャズムの中でハイテク・マーケティングのそれぞれの時期に適切なマーケティング戦略が必要というたとえで示した言葉です。最初にある「はじめに山ありき」の部分はこんな風に解説されています。

はじめに山ありき......。ここは、イノベーターとアーリー・アダプターが形成する初期市場である。情熱とビジョンが溢れ、壮大な戦略的目標を達成するために多額の資金が投入されている。

 BtoBマーケティングの領域でもブランド価値がもたらす優位性は認められていますが、クリステンセンとジェフリームーアの言葉を借りれば、前項でも触れたように安定志向の熱意のない人間がアサインされていれば、駄目になる確率が高まってしまうでしょう。

 つまり、これからの時代に立ち上がっていくサービスにおいては、

  • 実績ある企業の収益向上モデルに合わないことも理解した上で取り組む
  • その合わない時期を耐える覚悟を持った経営層と担当者の存在がまず大切である
  • そこをサポートしていくマーケティングサービスを提供する会社が必要

だと考えます。

 クリス・アンダーソンは2009年にfree(無料)からお金を生みだす新戦略という考えを示しました。そして、現在訪れているクラウド時代のビジネスは、それ以前のビジネス概念では通じないことも多いのです。

 開発業界ではアジャイル開発という考え方を取り入れるところが増えていると聞きます。著者の仕事領域では前回紹介したhubspotを利用した企業サイトの運用パターンがまさにそれに近いもので、依然、試行錯誤が続いています。そういう意味で、概念的なことも含め、オートメーションツールの導入とBtoBマーケティングへの取り組みは、これまで存在しなかった新しいことにニ重三重にトライしているのと同じ状態なのかもしれません。

背後になんの見込みもない竹槍営業続けますか?

 前回hubspotでの運用がそれまでとまったく違う世界を示していることに触れました。多くの会社でマーケティングオートメーションについての取り組みはこれからだと思います。

 導入効果やその結果が出るにはそれなりの期間も必要でしょうし、そこから得られる収益は前項でも触れたように一時的に実績ある企業の収益向上モデルに合わない場合もあるかもしれませんが、そこを乗り越えて日本でのマーケティングオートメーション成功事例どういうものが今後出てくるのか非常に興味があるところです。

 インターネットが普及してから現在は15年程でしょうか。ブーム化している商材であれば、多くの見込み客が検索を行い、検索結果から自社サイトに誘導し、Webだけで顧客化を完結させることが可能な時代です。

 インバウンドマーケティングは営業効率が高く、この分野の自分達なりのベストプラクティスを見つけることは重点課題です。ただ、BtoBマーケティングの領域においては、検索してもらうのをじっと待っているわけにもいかない側面あるので、そういう意味でインサイドセールスの考え方も重要だと著者は考えています。

 インバウンド型は見込み客が行動を起こすことを待つことです。ですので、これ単体で売り上げ目標を達成しようとすると当然、無理が出てきます。つまり需要を喚起する際には、相手を引っ張るよりも後押しすることが必要であり、そういった意味でインサイドセールスについても取り組みを考える必要があるということです。

 その他にも、ブランド認知が低いケースや製品やサービスの活用方法を啓蒙する必要があるような場合においてインバウンド単体アプローチでは無理があるのはお分かりいただけると思います。

 適切な顧客セグメントに対しコンタクトラインを確率しながら関係性を構築していくアプローチについては沼沢拓也氏の「インサイドセールスの実務」にあるこちらの図が分かりやすいと思います。


インサイドセールスの基本スキーム 1次フォロー(コンタクトラインの確立)、2次フォロー(ニーズ・商材判定/データベース化)、3次フォロー(商談化)とフォローを重ねて商談へつなげる

インサイドセールスの基本スキーム

 同書においてインサイドセールスはこのように解説されています。

インサイドセールス3つの特徴。

第1に、顧客に関するさまざまな情報をデータベース化し、蓄積された顧客情報の活用を軸とした情報営業であること。

第2に、商談化する前の顧客に対し、共通の属性/傾向を持つ顧客群単位でアプローチすること。

そして第3に、個々の顧客に対して担当者をつけず、顧客にコンタクトする人間は流動的だということである。

 これを読むとインサイドセールスにしても、インバウンドマーケティングにしても、IT(データベース)を活用して顧客との接点を持つところからクロージングするところまでを"見える化"するというアプローチにおいて同じ考え方であり、そこを担うマーケティングオートメーションツールに大きな期待が寄せられているのだろうと考えています。

 会社としてのマーケティングへの取組みに始まり、コンテンツの制作、マーケティングオートメーションの導入やらインサイドセールスなどなど会社としては投資の期間は必要となりこの期間にはいろいろ不安になることも多いかと思います。

 「インサイドセールスの実務」にこんな一節があります。インサイドセールス導入から成果が出るまでには1年から1年半の期間が最低限必要と断った上で、何らかの成果が出てくる段階では1件の商談の背後にはいくつかの商談が見えてくるはずであり、この言葉につながっていきます。

 そうした状況を作るのと、背後になんの見込みもないまま新たな顧客を求めて営業するのとでは、後の成果が目に見えて違ってくることは明らかでしょう。

 これからの時代、竹槍営業に頼るわけにはいかないと考えている方には重い言葉ではないでしょうか?